眼底検査 渋谷区健診や人間ドックの意義 

眼底検査でわかること


無散瞳眼底カメラや画像ファイリングシステムを用いて診察時 患者様には所見をその場で御呈示させていただき疾患の説明に努めています。

目は心の窓と申しますが、眼は体の窓でもあります思いの他 多彩な疾患を 眼に現れた所見を眼底にみることができます。

網膜は身体の中で、神経(視神経)や血管を直視できる臓器ですから 高血圧 動脈硬化 糖尿病変化をとらえるのに有用です。それ以外にも緑内障、貧血や血液疾患 ある種の感染症など多彩な全身疾患がみつかるため 眼底検査は重要です

なにげなく眼で物をみていても 僅かな変化には気がつかない場合も少なくありませんので御注意を!

飛蚊症

途中にさえぎるものがあれば 網膜には影として移ります。影は様々な形にあらわれますが 多くの場合 小さな蚊が多数みえるように感じることから飛蚊症と呼ばれます。多くの場合 眼球の内腔にある透明な硝子体の混濁や変化が飛蚊症の原因です。大部分の飛蚊症の症例は 生理的現象で 様子をみることが可能ですが「黒いすすが流れるようにみえる」場合は注意しましょう。

眼底検査見つかった網膜裂孔

 

全身疾患と眼

全身疾患と眼には密接な関係があることは古くから知られ「眼は全身病の鏡」などと伝えられてきました.このため人間ドックでは眼底検査があるといっても過言ではありません。全身疾患の分症として眼症状が出現する理由は,眼球が極めて微細な血管網や神経組織から成り,全身変化が眼球に現れ易いからである.また光透性に富むことから,一旦眼組織に障害が生じると網膜における可視変化として表れ、視覚そのものに大きな変化を来たすことも特徴です.

いいかえれば、多彩な眼所見に、どのような全身性変化が潜んでいるのか伺い知ることができる臓器とも言えるのです.すなわち眼を診ることは,眼をみるだけではなく全身変化を診ていることを意味しており、そのような背景から,近年予防医学の分野で眼科検査が重要視され,全身の隠れた疾病を見出す器官として検診には欠かせない検査です。

ちなみに上のグラフは過去勤務していた総合病院で自分が集計した一年間のデータで、検診で何らかの要精査を検出した率をあらわしています。30台~60才代以上になるにつれ、要精査の割合が増え疾患の発見に役立っていることが理解できると思います。

 循環器疾患

全身臓器のなかでも眼底は動静脈血管を直接観察できる場所です.特に高血圧症と動脈硬化の診断にとって眼底検査は重要で、高血圧性網膜症には,血圧の変動で可逆性変化を示す狭義の高血圧性眼底所見と,血中の中性脂肪で生じる動脈硬化性網膜所見で構成されます.

眼底所見は,Scheie分類やKeith-Wagner分類でとよばれる分類で分類されることが知られており、各分類における程度gradeと血管の組織学的な高血圧性や硬化性変化が相関するので,内科の先生方は眼底所見を重要視されます。

動脈硬化の場合,なかでも粥状硬化は,大動脈壁の内膜の脂質沈着,線維性肥厚,粥腫,血栓形成などを生じ,仮に首から頭に向かって走る内頸動脈に生じると,灌流域である眼に血栓(栓子)を遊離させ虚血を招き,それが原因で網膜中心動脈閉塞(下の図)

網膜中心動脈の網膜 黄斑部が蒼白

網膜動脈分枝閉塞症虚血性視神経症新生血管緑内障などが発生します.突然眼の前が真っ黒になって,スーッとまた見えてくる一過性黒内障と呼ばれる症状は,それらの疾患の前駆症状である場合が多く、この症状を自覚したら注意が必要で、眼科医にまずご相談ください。

そのような症状がみられた方は,ドプッラー血流検査による眼動脈の血流量,頸動脈内腔の所見を確認すべきです.これは、その後発生しやすい脳血管障害を防止する上でも重要であります.粥状硬化による内頸動脈閉塞は糖尿病の方に多く,眼底検査で左右差のある糖尿病網膜症は頸動脈の循環障害を疑います.

腎疾患

腎疾患の眼底所見は1)血圧上昇と細動脈変化が主体で高血圧性網膜症の所見を呈する血管型網膜症,2)高血圧に窒素血症が加わって生じる腎性網膜症,3)高度の貧血でみられる貧血性網膜症が代表です.妊娠中毒で,血圧の上昇を来たすとみられる網膜症は,妊娠中毒性網膜症です.

糖尿病

糖尿病眼症の代表は糖尿病網膜症,白内障,眼筋麻痺といわれています.年齢,罹病期間,血糖の状態,腎合併などが加味され、多彩な所見がみらます.

糖尿病でみられる黒目の表面,角膜の上皮障害は,末梢神経障害が基盤になって生じると考えられており,糖尿病に罹患したため生じた知覚低下が原因で生じるとされます.

また,神経症状として複視や眼瞼下垂症状で受診し,眼科で初めて糖尿病の存在を知ることも少なくありません.

ちなみに,水晶体に糖が蓄積すると白内障が進行します.調節力が低下し、年齢の割りに老眼症状が強くなったり、また糖尿病に罹患すると瞳孔は,しばしば縮瞳傾向を示しすので散瞳薬に対する反応性も乏しくなるといった特徴もみられます。

非肉芽腫性(目のなかに膿がたまるような炎症で)ぶどう膜炎が発症し,糖尿病がみつかる場合も少なくありません.

糖尿病網膜症の眼底病変は単純型,前増殖型,非増殖型に分類される.単純型網膜症では,網膜毛細血管内の毛細血管瘤や点状や斑状出血,硬性白斑などがみられますが,それらの所見は治療で病状が改善するに伴い可逆的に消失する場合のあることも忘れてはいけません.

糖尿病例でみられた成熟白内障(水晶体レンズが白濁)

前増殖型網膜症は単純型の病態に,軟性白斑が多発し静脈の異常や網膜内細小血管異常が加わった状態である.蛍光眼底造影検査では無灌流域が観察される.病期が進行し無灌流域に新生血管が発生すると増殖型網膜症に移行します.

新生血管壁は脆弱なので,血漿成分の漏出や出血を来たしやすく、硝子体出血を来たすと硝子体内でコラーゲンが増殖しかさぶたのような線維性増殖組織を形成することがあります.これが網膜と硝子体の境界に形成されると牽引性網膜剥離生じ失明の原因となるので要注意です.

血液疾患

悪性貧血や失血性貧血など重症状態に陥ると出血性網膜症を引きおこし,その眼底には綿花状白斑,網膜表層出血,Roth斑,静脈の拡張や蛇行などの所見が観察されます. 白血病では,静脈の拡張,蛇行,出血(網膜出血や網膜前出血,硝子体出血)綿花状白斑がみられ、Roth斑とよばれる特徴的所見が観察された場合,白血病に罹患していることが強く示唆されるので大事な所見である.

白血病にみられたRoth斑

中年以降の年齢で,比較的軽度の虹彩炎に強い硝子体混濁がみられ,副腎皮質ステロイド薬の治療にも改善が乏しい場合,眼内仮面症候群(intraocular masquerade syndrome)とよばれ,眼・中枢神経系に眼内悪性リンパ腫がみつかることもあります.進行例では網膜下に黄色白色斑状の腫瘤性病変がみられることがあります。

多発性骨髄腫,マクログロブリン血症,赤血球増加症や時に悪性リンパ腫など血液粘度が上昇する疾患では,網膜静脈の拡張や蛇行,網膜表層から深層にかけた出血が眼底にみられる.進行例では,網膜中心静脈閉塞症や視神経乳頭腫脹が観察されることもあります.

感染性疾患

ヘルペスウイルス感染は高齢者や免疫不全患者に好発するのは良く知られています.眼部帯状疱疹は激しい神経痛を伴い三叉神経第一枝領域に発生する水疱性皮疹を主徴とする疾患で,水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化,すなわち子供のときにかかり体内で眠っていた水ぼうそうウイルスが再活動を起こすため生じるとされています.

鼻尖部に皮疹のあるものには,眼病変がともないやすくHuchinson徴候と呼ばれる).

角結膜や前房には,多彩な症状がみられ,皮疹より数日遅れて角膜上皮に偽樹枝状潰瘍を形成し,上皮下混濁を来たし円盤状角膜炎を呈するものや,虹彩炎を併発し高眼圧,角膜後面沈着物,虹彩の脱色素を伴う萎縮巣と括約筋の障害を残すものまで,臨床所見は多彩です.

単純ヘルペス(HSV)にはⅠ型(口部ヘルペス)とⅡ型(性器ヘルペス)があり,このウイルスで急性網膜壊死という疾患をもたらすこともあり、眼動脈の閉塞性血管炎や網膜が壊死に陥り多発裂孔を形成する予後不良な疾患です。硝子体混濁も著しく,牽引性網膜剥離が発生する点で非常に難治な疾患として知られています.HIVに感染してAIDS(acquired immunodeficiency syndrome)を発病すると,眼部カポジ肉腫,AIDS網膜症,日和見感染としてサイトメガロウイルス網膜炎を発症することもある.

人間ドックで異常を指摘された場合,直ちに眼科医を受診することが大切です。しかしながら、多くの場合、重篤であることは少なく、検査結果に関して丁寧な説明をもとめ,どうしたら所見が改善するのか説明をうけ、納得すべきでしょう.また適切な治療法について指示に従い改善することも少なくありません。おっくうがらずに病状に関して診断を仰ぐべきでしょう。